連載前からドレス姿を指摘する方が現れるのは想定していました。
現代日本人はドレスで畑仕事をしないので、
ドレスで畑にいる絵面の面白さ、ギャップを感じさせようと、狙っていました。
エレナさんにドレスを着せた理由は主に3つです。
①エレナさんの性格と、物語の中で彼女の置かれた境遇を表現するため
ドレスを汚し畑仕事をしている様子から、
エレナさんが高級な服より農業が大好きという性格がわかります。
エレナさんが初めてドレスで畑に入った時は家出中なので
着替えるという選択肢はありません。
その時にドレスをさばいて動き、今はコツをつかみました。
野菜や畑を傷つけないよう、上手に動いています。
③の「現実の歴史とのすり合わせ」にも書きますが、
エレナさんがドレスの中に付けているコルセットやパニエは動きやすく、スカートの形を変えやすい腰までのものを着用しているので、
物理的に考えてもドレスで畑仕事をするのは可能です。
エレナさんには家庭の事情もあります。
エレナさんの父親は名ばかり貴族というコンプレックスから貴族の恰好を大切にしています。
娘にも貴族の恰好を求めます。
エレナさんは自分より相手の気持ちを優先する性格です。
名ばかり貴族の生きずらさに共感し、父に寄り添うエレナさんは、
よほどの理由が無い限りドレスを脱がないです。
それに、ルイス様の農園は「好きな服を着る自由」がある場所です。
ルイス様の農園にその自由に不満を感じる人はおらず、(③に書きますが、この農園の人々はドレスで畑にいるのが普通だと思っているのもあります)
誰に嫌がられるわけでもないので、エレナさんはドレスを着ています。
また、ルイス王子の農園の農民達は、身分差別の激しいウィリ王国内において
王子やエレナ達のような貴族と対等にコミュニケーションを取れる自分達を誇らしく思っています。
貴族の恰好をした者と農民の恰好をした者が一緒に土いじりをする農園の風景は、
「身分が違っても対等」を目指すルイス王子と農民達の理想の縮図です。
余談ですが、
私個人は、ドレスで畑仕事をしている人がいたらほほえましく思うタイプの人間です。
おしゃれな服で気分が上がる人もいますし、動きやすい農作業着で気分が乗る人もいます。
好きな服で好きなことをすればいいと思います。
②「マンガならではの面白さ」で読者様に楽しんでもらうのがマンガ家の仕事だから
漫画を面白くするにはいくつものテクニックやハウツーがあります。
最近はネットでハウツーが多く出回っているので、以下に書くことを既に知っている方もいると思います。
そのうちの1つが、キャラクターの見た目と行動にギャップを作ることです。
土かぶりのエレナ姫は
貴族(非労働階級のイメージ)が。畑仕事(汚れる肉体労働)をする
という、ギャップを作っています。
「ドレスで畑仕事なんて異常」と読者様に違和感を持ってもらうのが狙いです。
某大ヒット漫画で
不良(理不尽な暴力、不健康、ダークなイメージ)が甲子園を目指す(スポーツマンシップがあり健康的、真面目、ヒーロー)のと同じ公式です。
「不良が甲子園なんて異常」と読者様に違和感を持ってもらうのが狙いです。
現実で普通はありえない「ギャップ」を作るのです。
そしてもう1つが、シルエットだけで識別できるようにキャラクターを造形にすることです。
エレナさんが他の農民と同じ服を着ていたら、他の農民とシルエットが同じになってしまいます。
だからマンガ的にはドレスを着せるのが正解です。
また、少女漫画では画面の華が人気を左右します。
私が農業を描くにあたって悩んだのが、農業のイメージの地味さです。
現代では、農業のイメージを変えようと、おしゃれな農業服を作っているメーカーもあります。
それもドレスで華を出すヒントになりました。
この項目は他にも上げられますが、長くなるのでまたの機会にします。
私はプロ漫画家としての責任を持って作品に②の要素を盛り込んでいます。
③現実の歴史を調べ、現代人の常識とフィクションであることをすりあわせた結果
以前、作者は服飾歴史の研究家さんの所に行き、勉強させてもらいました。
その結果わかったのですが、
ドレスを着ていた時代では、ドレスが汚れていてるのは割と普通のことで、
ドレスを汚してはいけないから着替えよう、というのは現代日本人の価値観のようです。
貴婦人のドレスは裾で埃やゴミを引きずりまくり、汚いことで有名だったそうです。
ロココ時代から近世ヨーロッパ以降の貴婦人が実際に着ていたドレスを見せてもらいました。
見せていただいた当時のドレスは、今でも裾の内側に、落ちない汚れがベッタリ付いていました。
ロココの貴族の服が富裕層をアピールをする為に、労働しにくいでデザインなのは有名な話ですが、それは汚れやすさにも大貢献したようです。
マリー・アントワネットが畑を作っていたという歴史もあります。
現実の歴史でもドレスを汚して着ていたんですから、
エレナさんのいる世界でもそういうことにしました。
ドレスが汚れているのは登場人物達にとって普通のことです。
とはいえ、現実の当時の人達も綺麗にキープしたいとは思っていたようで、ドレスを汚さないコルセットを考案する等、工夫はしていたようです。
でも使いにくかったのでしょうか…
実物のドレスは産業革命後になっても、酷く汚れてました。
そんな歴史をモデルにして「綺麗なドレスを汚したくない」という想いは、
フローラ様に語ってもらいました。
また、この手のドレスのスカートには骨組みが入っていて、広がったスカートの形が変わらないというイメージがありましたが
実際にドレスを見せてもらったら、腰までのコルセットとパニエでも
同じようなスカートのラインが出ることがわかりました。
これを参考にしたので、
エレナさんは、皆さまのイメージしているよりは動きやすいし
裾をさばきやすいドレスを着ています。
歴史的事実、現代人の常識、フィクションのすりあわせをします。
歴史上の人々→動きにくい服・服を汚して生活する
現代日本人→服を汚してはいけない・汚していい動きやすい服に着替えて農業する
フィクション→作り話なので、現実や歴史に合わせる必要無し。
エレナ姫も、竜とか出てくるフィクションなんです。
「異世界」も明記してます。
現実と違うとか、歴史と違うとか、論じるのはおかしいんです。
そもそも現代ものでも歴史ものでも無いんですから。
ですが、歴史は作者と読者の共通知識なので、
フィクションを作る上では便利ツールの役割も果たします。
フィクションの舞台設定を実在の歴史に似せると、
作品の世界についての長々した説明文を読者様に読ませなくてすみます。
「あの時代の風景に似てるから、同じような文化だろう」と、説明しなくても想像してもらえるのです。
しかしその便利ツールは
フィクションを現実世界や歴史とゴッチャにしてしまう人を生み出す、という
欠点も合わせ持っています。
だから一部の方達が「リアリティが無い」と感じてしまうのは仕方のないことです。
共通認識をどこまで作品に採用するかは、
作者によって匙加減が違うと思います。
エレナ姫の場合は、
共通知識と同じところ、違うところ、
違うところは、その作品の世界の中でなぜそうなるかを無理無く説明できる、等、
作品の舞台設定を作っておきました。
「ここが共通知識と違う」と言われたら
「この世界ではこの部分が現実と違うからこのようになる」と説明できる状態にしておいたのが、私なりの匙加減です。
まとめ
ドレスで畑仕事をする描写をどう思うか、
畑仕事をしている両親や農家の友人、編集さん、海外の友人等、
いろいろな立場の人の意見を参考にし、出した結論でもあります。
土かぶりのエレナ姫はフィクションではありますが、
エレナさんのドレスで畑仕事をするのは物理的に可能だし、
現代人が思うほど不自然ではありません。
でも、もっと畑仕事に適した服があることを、前世の記憶持ちのエレナさんは知ってます。
にもかかわらずドレスを着るのは、エレナさんなりの事情があるからです。
以上がエレナさんにドレスを着せている理由です。
私はこれからも、私の作品を良いと感じてくれる読者様のために漫画を描きます。
作品を応援してくれる読者様に楽しんでいただけるよう精進します。
今後ともよろしくお願いします!